甘い麦茶の苦い思い出

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きぬえ宣伝社のコラムライフハック
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暑い夏、家に作り置きの麦茶が常備されている家は多いだろう。麦茶にはカリウムによるむくみの解消や血圧調整、ミネラルによる疲労回復、抗酸化作用による細胞の老化予防、胃粘膜保護作用、そして血流改善といったたくさんの健康効果がある。カフェインを含んでいないので、小さな子どもでも安心して水分補給ができるし、大人も生活習慣病の予防ができる。

子どもの頃、私の実家も季節に関わらず常に麦茶は常備されており、その麦茶には必ず砂糖が入っていた。物心ついたときから砂糖入りの麦茶を飲んでいたため、なんの疑問も持っていなかったし、他の家の麦茶が甘くなかったときはびっくりしたほどだ。通常麦茶には砂糖は入っておらずノンカロリーだが、地域によっては砂糖入りの甘い麦茶が飲まれる習慣があるらしい。特に山梨県や、静岡県、新潟県、四国地方では昔から甘い麦茶が飲まれている。私の父は静岡出身なので父の習慣に従ってわが家の麦茶は砂糖入りがデフォルトだったのだ。

小学校2年の夏休み。同じクラスで棟は違うが同じ団地群に住んでいた友達と夏休みはよく遊んだ。一緒に外で遊んだあとはどちらかの家(親が在宅している方)に行ってままごとやら学校ごっこやらをして遊ぶのが日課だった。夏休みが始まって1週間ほどが過ぎた暑い日、いつものように外で遊んで、その日はわが家に親がいたのでうちで遊ぶことになった。その日は母だけじゃなくて父もいたのでなんとなく嫌な予感はしていたのだが…。

その友達はとても絵が上手で想像力も豊かな子だった。いつも年賀状が来ると、父が私たちに届いたものもすべてチェックしていたのだが、その子の年賀状がすべて手書きで、絵で文章を書いているような感じのおもしろいものだったり、デザインにすごく凝った絵が描かれていたり、父はその子の年賀状を見て「この子の年賀状、おもしろいな~。お前も印刷とかしないでこういうの書け。」と、大絶賛していた。この日も「今日あとでうちに遊びに来るのこの子だよ。」と話したら、「お~、どんな子か楽しみだな。」などと興味深げだった。

外でたっぷり遊んで2人でうちに入ったら、居間のテレビの真ん前のソファに父が寝転がっていた。昼間に父が家にいるといつもそうなので、私は何も思わなかったが、友達は父が半裸でソファに寝転がり、昼間から酒を飲んでテレビを見ている姿を見て、固まっていた。「お~、お前がおもしろい年賀状の子か。」父に話しかけられ、「…こんにちわ…。」そんなぎこちない挨拶をした友達に「のど乾いたろ、おい、子どもたちに麦茶でも入れてやれ。」と母に私と友達の2人分の麦茶を持ってこさせた。甘い麦茶を一口飲んで友達は「え?何これ…。甘い…。気持ち悪い。」私はその頃は甘い麦茶が普通だと思っていたので、それに対して何も説明してあげられず黙ってしまった。寝転がってる父の足元に座っていた友達は突然父に頭を蹴とばされた。「人の家に来て、出してもらったものを気持ち悪いとは何だ!」口より先に手や足が出る父。友達は突然頭を蹴とばされたことにびっくりして呆然としていた。「黙ってないであやまれ!」少しの間を置いて友達は涙ぐみながら「…ごめんなさい。」と言って、私たちは子供部屋に引っ込んだ。すぐに母が「ごめんね、びっくりしたよね。気にしないでね。」となだめに来たが、友達はもう遊ぶ気分にならなかったようで、早々に帰ってしまった。私は友達に申し訳ない気持ちももちろんあったが、それよりも友達が来るのがわかっているのに半裸でビールを飲んで寝転んでいたことや、急に友達の頭を蹴とばしたことや、友達が謝ったのに何も声をかけずに帰したこと、父に腹が立ってしょうがなかった。そして普通の麦茶に砂糖が入っていないことを知らなかった自分に、教えてくれなかった父と母に腹が立った。

後日、その友達に電話で謝って、また外で一緒に遊ぶようになったが、その子はうちの父を怖がるようになり、どちらかの家に行くときも、うちに来るのは母だけがいるときだけになり、そのたびに「お父さんいるの?」と確認するのもいやだったのか、あまり私の家には来なくなった。私も当然のようにあまりうちには誘わなかった。あの日のことを私も思い出したくなかった。小学校5年生でその子が転校するまで、仲良くしてくれた大好きな友達だった。いやな思いをさせてしまった罪悪感はずっと残った。

それが原因ではないが、いつの間にかうちの麦茶は砂糖入りと砂糖なしの二種類が作られるようになり、父と母が離婚した後は砂糖なしのみになった。二種類作られてる期間、私は砂糖入りの麦茶は飲まなくなった。父は「砂糖入ってるほうがうまいのに。こっち飲め。」と何度か強要してきたが、私は「いいの。私は甘くない方が好きなの。」と珍しく頑なに父に逆らった。母が父にあの夏休みの一日のことを話したのかどうかは知らないが、父も無理に飲ませようとしなくなった。

今、あの麦茶を飲んだら美味しいのか。飲んでみればわかるのだが、思い出の味を確認することになるようで…。いつかそのうち勇気が出たら飲んでみよう。主人と一緒に飲んでもらえばちゃんと甘く感じるかもしれない。美味しいと思うかはわからないが、主人にも甘い麦茶を飲んでもらったらどんな感想が聞けるのか、父がいたらそれにどんな反応をするのか、少し想像するのも面白そうだ。

この記事を書いた人
きぬぶん

◆サイトの運営責任者
◆きぬえの宣伝社 代表社員
◆不定期でコラムなどを執筆中

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