たいせつな「時間」がみつかる本
「モモ」はドイツの作家ミヒャエル・エンデによる児童文学作品です。
1973年に刊行され、1974年にドイツ児童文学賞を受賞し、各国で翻訳されています。
特に日本では根強い人気があり、日本での発行部数は本国ドイツの次に多いそうです。
私がこの「モモ」を知ったのは、2020年に放送された柴咲コウさん主演のドラマ、「35歳の少女」を見たときでした。
このドラマでは、主人公が現代社会に順応しようとする中で、愛読書である「モモ」の言葉を引用し、現代社会の効率化や無駄な時間消費といった問題とリンクさせて物語が展開します。
前回ご紹介した「星の王子さま」同様、わたしの大切なものを思い出すために、今後も幾度となく読み直し、いろいろなことを感じさせてくれる一冊として、この「モモ」を紹介させていただきます。モモは人の話をじっくり聞くという不思議な力を持つ少女です。そのモモが人々の時間を盗み取る「時間泥棒(灰色の男たち)」から奪われた「時間」を取り戻す物語です。
モモは廃墟となった円形劇場に住み、みんなの相談役となっていましたが、灰色の男たちが「時間貯蓄」を勧め始めて人々から時間と心のゆとりが奪われていきます。
モモはカメのカシオペイアと時間の神であるマイスター・ホラの助けを借りて立ち向かい、人々の時間を取り戻すために灰色の男たちとの戦いに挑むお話です。
何と言ってもこのモモがとても魅力的です。
ある日突然、円形劇場の廃墟に現れたモモは、背が小さくやせっぽっちで、身なりも決して清潔とは言えません。
そんなモモは「ほんとうに聞く」という才能を持っていました。
モモに話を聞いてもらった人たちに不思議な変化が現れます。特別なにか意見をしたりするわけでもなく、ただじっと聞いてもらうだけで、勇気がでたり、希望が持てたりする不思議な力です。
モモにそのような力があったのは、魔法が使えたからでも、特別な呪文を知っていたからでもないのです。
私は、この「ただ聞く」ということはなかなか簡単にできることではないと思います。
私を含め、多くの人は友人や家族などの話を聞いていると、「こうしたほうがいいんじゃないか」とか「それは違うんじゃないか」とか意見してしまったりしないでしょうか。話す方の立場になっても、正しい道を示してほしい、何か意見を聞かせてほしい、と考えて話してしまったり。
ただ人の話に耳を傾け、時間をかけてゆっくり話を聞くこと。きっと簡単なようでなかなかできないのではないかと思います。
「時間泥棒(灰色の男たち)」がモモを一番に怖がったことも、時間の神であるマイスター・ホラが亀のカシオペイアに頼んで自分のところに連れてこさせて、モモにとても重要なお願いをしたのも、モモが「時間のたいせつさ」をほんとうの意味でわかっていて、人々の時間を取り戻せるのはモモしかいないと感じたからでしょう。
私は「時間のたいせつさ」を知っていることと、「時間をかけてただ人の話を聞く」ことが繋がっているように感じました。

この物語では、「時間」について、きわめて日常的な秘密と話しています。すべての人間がそれに関わり合い、それをよく知っているけれど、そのことを考える人はほとんどいません。ほとんどの人はその分け前をもらうだけもらって、それを一向に不思議と思わない秘密が「時間」だと言っています。
そのことを誰よりもよく知っていた灰色の男たちに自分たちの時間を預けてしまった町の人たちは時間がたっぷりあった時と考え方や行動が大きく変わってしまいます。
その人々の変化からも、今まで無意識だった「時間」が使い方でどれだけ形が変わってしまうのかと驚かされるところです。
そして、「時間」を誰よりもよく知っているという「時間泥棒(灰色の男たち)」です。
灰色の服に身を固め、顔まで灰色、言葉たくみに町の人たちの時間を「時間貯蓄銀行」に預けるよう持ち掛けます。この男たちが通るとみんな味わったことのない寒気に襲われるのですが、私も同じくゾワッとしてしまいました。
このものすごい数の灰色の男たちと、ひとりぼっちの小さなモモがどんなふうに戦っていくのか、ドキドキワクワクして読めるかと思います。
そして、モモの周りにいる人々もみんな個性的です。
道路掃除部のベッポ、観光ガイドのジジ、他にも床屋のフージーや酒屋のニノ。
みんな灰色の男たちに時間を預けて行動や考え方が大きく変わってしまいます。
モモが大好きだった、そしてモモを大好きだった人たちが、時間がなくなってしまったことで同じ人なのに今までとまったく違う人のようになってしまう様は、読んでいてさみしいような気持ちにもなり、なんだかハッとするところもあったり。
時間に余裕がなくなることで、気持ちにも余裕がなくなる経験、あるような気がしませんか。
わたしが「時間」について不思議に思ったことは、「年を取ると時間がたつのが早く感じる」ことです。子どもの頃は一日も、一か月も一年も、今よりもゆっくりだったのに、年齢を重ねるごとにすべてがあっという間に過ぎていくのはどうしてだろうと疑問に思いました。
これは「ジャネーの法則」(年齢の逆数に比例して一年の体感時間が短くなる)や、脳の情報処理速度の変化(細かく区切らずおおきなまとまりで捉えるようになる)、新しい体験の減少(新鮮さが減り、印象に残りにくくなる)などが主な理由だそうです。
年齢を重ねた今、そしてこの本を読んだ今、気が付くとあっという間に過ぎていってしまう時間をしっかり大切に過ごさなければいけないと再認識しました。

人は時間に余裕がなくなると、それまで大切にしていたものまでが大きく変わってしまうようです。
私たちも、時間を節約するために、ゆっくり人に向き合う時間や、ゆっくりくつろぐ時間を削ってしまったりすることがあるのではないでしょうか。
時間を節約して、効率的に使うことも必要なこともあるとは思います。
でも、私はこの本を読んで、時間の節約と浪費についてもっと深く考えました。
節約していい時間って、どれだろう。
人にとって、悩む時間や、休む時間、誰かと話す時間、そして誰かの話をゆっくり聞く時間、どれも大切な時間なのではないかと考えました。
その時間を無くしてしまったら、とてもさみしい一日に、とてもさみしい人生になってしまうのではないかと思うのです。
たいせつな時間をどうやって使うか。どう使っても時間は平等に過ぎていきます。
そして、過ぎてしまった時間は二度と返ってはきません。
人にあげたり、人からもらったり、溜めておいて後から使うこともできません。
それは命と同じだと思います。
限られた時間をほんとうの意味で大切に使うということを考え直すことが必要です。
そして、この本を読み終えて、改めてモモの魅力に圧倒されるのです。


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