子どもの頃、学校で絵を書いても、家で年賀状を書いても、父のチェックが必ず入った。そのときにいつも言われたのが「お前はホントにまねっこザルだな。下手でもいいから、まねしないで自分の思ったように書け。その方がおもしろい。」
妹が同じように学校で書いた絵を見せると、「ここをこの色で塗るのはおもしろい。お父さんはこういうのが好きだ。」と褒められる。私だってそうやって自分の発想で書きたいけど、できない。私には、自分で考えて表現することができないんだと思った。

周りの子がかわいい洋服を着ていれば、同じようなものを欲しがり、友達がかわいい絵や文字を書いていると同じように書きたくなってマネをした。その子に見られて「マネしないで」と言われるのが怖くて、こっそり練習して、かわいく書けたら親に見せる。「どうせまた誰かのマネだろ。」そう言われるのに、嫌な思いするのに。
さすがに、中学生ぐらいになると、そういう露骨なことはしなくなったが、美術の授業は模写とか、好きな写真やイラストを使って点描写をしたりするものに関しては、楽しくていつまでもできたし、ある程度の評価も受けた。点描写においては、かなり夢中になり、当時大好きだった漫画の好きな場面を書き写し、点描写で聖書して、新聞の読者ページに出して、2度か3度掲載されたこともあった。しかし、自分でデザインするものなどに関しては、なかなか手をつけることもできず、周りよりもかなり時間がかかった上に、あまり満足も評価も得られなかった。
文章はちょっと違った。小学校から高校を卒業するまで、何かと作文を書かされる機会があるが、作文は私にとって周りがいうほど苦痛な作業ではなかった。題材によって悩むことはもちろんあったが、書くことが決まってしまえば、あまり時間をかけずに書けたし、読書感想文なんかも、本を読むことは少し苦痛だったことはあるが、読んでしまえばあとはそんなに苦労しなかった。そしてそれを親や先生に見せることも抵抗がなかった。まねっこじゃなかったからかもしれない。どんなに下手くそな文章でも、人のまねをせずに書けたから、負い目がなかったんだと思う。自分が思ったことを自分の言葉で書く、それだけで自己肯定感を得られたのだ。

だから、現在こんな感じでゆるいコラムを書いているというわけではないが、もしかしたら潜在的にそんなこともやってみたいと思った原因なのかもしれない。
主人とよく幼少期のことなどを話すのだが、この「まねっこザル」の話しをしたとき、主人は「まねっこの何が悪いの。」「そのまま書けるなんて、すごいじゃん。」とさらっと言ってくれた。純粋に認められたようでうれしかった。でも、自分でストーリーを考えたり、キャラクターを作ったり、そういうクリエイティブな力が自分にないのは自覚している。だから、小説を読んだり、漫画を読んだりすると「すごいな~。」「こうやって自分で考えてサラサラ書けたら楽しいだろうな~。」と思ったりしていた。どんなに人気のある作家や漫画家も「簡単に、自然に」できるわけではないのに。どんなに有名な人たちもみんな、自分の大好きな作家や漫画家のまねっこから始めて、そうやって書けるようにたくさん努力して、そこで初めて自分の要素を入れて書けるようになったり、アイデアが出てきたりするものなのではないか。生まれ持った才能、それももちろんあるのかも知れないが、それだけで成功できるほど甘くないだろうし、「才能があるから」だけで片付けるのは失礼な気さえする。主人がよく言うのだが、「できるかできないかではない、やるかやらないか。」なのだ。やりたいことを成功させた人たちはみんな、「やったひと」だ。
わたしは今、「卓上四季ノート」を書くのを日課にしている。書店に売っているもので、北海道新聞の一面に掲載されているコラム、「卓上四季」を書き写すノート。分からない言葉や漢字、天気や気になるニュースも記入できるようになっている。このコラムを始めようと思ったときに、文章を書く練習になると思ったし、言葉をもっとたくさん知ることができ、語彙力もつくのではないかと思って始めた。それと同時にコラムの文庫や普通の小説、哲学的な小説、いままでよりたくさん本を読むようにもなった。いままでは自分の好きな作家に偏って読んでいたが、知らない人のものや、本好きが推薦するもの、言葉の使い方が難しくてなかなか読みにくいものなど、今ではとにかくちょっと気になったものは読んでみる。休日も本屋に行くと、なかなかの時間つぶしになる。小説以外でも表紙のデザインや、挿絵のイラストなど、「こんなふうにすると読みやすいな。」とかいろいろ勉強になる。こんな感じで、日常生活の中に「やってみる」を少しずつ増やして「やる」に繋げていけたらいいと思う。文章だけじゃなくて、他にもいろいろ。楽器だったり、気になる資格だったり。これからの人生設計は「できるかじゃなくて、やるか」で進めばもっと充実するような気がする。まねっこザルから始めて、自分を作る。
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