このシリーズはいつものコラムと少し離れて、私が今までに読んだ本や現在読んでいて読み終わった後の感想など、みなさんに紹介したい本や読んだ本を通して感じたことや影響を受けたことなどを伝える、簡単に言えば子どもの頃に書いた「読書感想文」的なものです。これを読んで、もしみなさんも読んだことがあるものなら、自分の感想と比べてもらったり、読んだことがないものでおもしろそうだなとか、読んでみたいと思っていただけるものが生まれてくれたらとても嬉しく思います。
いつものコラムと同時進行でこのシリーズも進めていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします!
さて、「きぬえの読書感想文」第一号は「星の王子さま」です。
「星の王子さま」は、フランスの飛行士・小説家であるアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの小説です。1943年4月6日にアメリカで出版された彼の代表作です。初版以来、200以上の国と地域の言葉に翻訳されています。
この物語の前置きでは、「この本をフランスに住んでいるあるおとなの人に捧げる」と述べられており、この献辞にある「おとなの人」「こどもだったころのレオン・ヴェルト」とは、作者の親友であり、当時ナチス・ドイツの弾圧対象になっていたユダヤ人です。
二度とこの世で顔を合わせられないかもしれない親友を想い、友情だけではなく、たましいそのものまで形見にして遺さねばならないと、親友のために書いた一つの物語です。
日本では岩波書店が長らく作品の翻訳権を保持し、内藤訳が長年重版されましたが、2005年1月に翻訳出版権が消失にともなって、多くの新訳が出版されました。
私自身は岩波書店の「愛蔵版星の王子さま」内藤訳の他に、新潮文庫の「星の王子さま」河野訳と、岩波書店の「星の王子さま」池澤訳(これは飛び出す絵本のような仕掛けになっていておもしろい。)を持っています。
この物語に初めて出会ったのは中学生ぐらいのときです。そのときに読んでいた漫画で主人公の大切な一冊として登場していて、読んでみたいと思ったのが最初でした。
”心で見なければ、物事はよく見えない、肝腎なことは目に見えない”
おとなになればなるほど見えなくなる大切なことに気付かされたような、とにかく読んだ後、何だかしばらく動けなくなる、優しくて重い余韻がものすごかったのを覚えています。
そして、この本は読むたびに印象が変わるというか、印象を受ける箇所が変わるというか、読むたびに毎回新鮮な感想が生まれるのです。
読んだときの年齢だったり、そのときの自分の身体状況だったり、環境だったり、毎回まったく同じ状態じゃないから、そのときそのときに響く言葉や抱く感情も変わってきます。
もう何十回読んでいても毎回そうやって、たいせつなことを見つけられる本です。
この物語は、サハラ砂漠に不時着した飛行士が、自分の星を出て旅をしてきた「星の王子さま」と出会う物語です。王子さまは自分の星に残してきたワガママな一輪のバラとのけんかをきっかけに旅に出ます。王子さまは他の小惑星をいくつか訪れますが、どの星でもどこかへんてこな大人たちばかり。そして地球にたどりつき、砂漠に降り立った王子は、まずヘビに出会い、キツネに出会い、いろいろなことに傷つき、気付き、「大切なものは、目に見えない」という「秘密」をキツネから教わります。自分のバラが自分にとってかけがえのない特別な存在だと気付いた王子。飛行機を修理しようと悪戦苦闘するかたわら、王子の話を聞いていた飛行士。
散文詩風な語りで、一応は童話らしく見えても、突きつめると童話を超えた魅力があります。
“かつて子どもだったことを忘れずにいるおとなはいくらもいない”
と作者は言っています。大人になっても子供ごころのあどけなさを持っていれば物事を見る目が曇らない、というようなメッセージであり、そしておとながそのかつての子供ごころを取り戻すことでこの世をもっと晴れやかにという願いをこめて大切な親友に贈った物語。

この物語を最初に読んで私が一番に思ったことは「大人ってとても滑稽で、おとなになることはさみしいことなんだ。」ということでした。
王子が出会うおとなたちはみんなどこか頭でっかちで、王子さまは彼らの話すことをうまく理解できない。おとなからすると「当たり前」でそれが「立派」とされることがなぜかわからないのです。私もおとなになるということを真剣に考えたことなどなかったけれど、なんとなくいろんなことを経験していく上で、自然におとなになるものだと思っていたように感じます。
そうやって、多くのおとなたちが子供のこころ、目に見えない大切なものが見えなくなっていき、そしてそれがおとなになるということなのかもしれないとも。
物語の中で、王子さまはヘビと出会い、見聞きしたものから自分の愛したものはつまらないものだったと思い泣きます。そしてキツネとの出会いから「仲良くなる」「特別なもの」「愛おしいもの」などについての気付きを得ます。実際はヘビやキツネといった動物から何かを伝えられることなどないのですが、実社会においてもおとなたちからは見えない大切なことは、自然や、動物から教わることが多いのではないでしょうか。それは言葉で伝えられることではなく、自分が感じて考えて得られるものなのかもしれません。
私が何度読んでもなぜか涙が出てくるシーンにある言葉。
「大切なことは、目に見えない。」
読むたびにいろんな感情が出てきたり、違う思いが湧いてきても、この言葉が一番刺さるのは変わらないのです。
私はぜひこの児童文学をおとなになってからの方が大切に思うようになりました。
引っ張られるように大人になっていく中で、ときどき私の心が「星の王子さま」を欲しました。
そして読むたびに涙がこぼれ、心が柔らかくなります。
この物語に出会えてよかったと、毎回思います。私にとってとても大切な一冊。
私がこの「きぬえの読書感想文」をシリーズにして紹介しようと思ったとき、絶対に第一号は「星の王子さま」しかないと考えていました。
今後もいろいろな小説や物語をご紹介させていただきたいと思います。
その中でみなさんが読んでみたいと思えるものに出会っていただければ幸いです。

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