小さい頃、私の家にはクリスマスにサンタさんが来た。
クリスマスの2週間ぐらい前には、毎年母から近所のデパートやおもちゃ屋さんのチラシを数枚渡されて、サンタさんに頼む用と、親に頼む用を妹と選んだ。2人でそのチラシを代わるがわるチェックして、目ぼしいものに私は赤で、妹は青で〇をつける。それを母に見せて、「これはダメ、これは頼んでみるね。」と選別してもらって、「じゃあ、明日サンタさんに頼みに行ってくるからサンタさんにお手紙書いてね。それを渡してお願いしてくるから。」
私と妹はそれぞれサンタさん宛の手紙を書く。妹の手紙の内容はわからないが、私は「いい子にしてないとサンタさん来ないよ。」と言われていたのをしっかり考慮して、お手伝いをしたことなどの実績と、欲しいプレゼントの詳細(色やサイズなど。時にはもしなかったらの代替え案まで)を書いて、「雪がたくさん降っても気をつけて来てください。」と気遣いも忘れずに、たくさんの色鉛筆で丁寧にお手紙を書いた。
毎年、24日にチキンとお寿司とケーキを食べて、寝て起きたら枕元にプレゼントが置いてあるのだが、一度おもしろいクリスマスがあった。
いつものように24日の夜、私と妹が作った飾りでモリモリになった小さなクリスマスツリーをテーブルの脇に置いて、チキンやお寿司といったクリスマスのごちそうを食べていた。さて、あとはケーキというところで、子ども部屋から「ガタッ」と音がした。
父が「なんか音しなかったか?サンタかもしれないぞ。」と言ったので、「え?まだ寝てないのにサンタさん来るの?でもそうだったら、サンタさんに会える!」ドキドキして妹と急いで子ども部屋に行ってみたら、私たちが使っている二段ベッドにそれぞれのプレゼントとサンタさんからの手紙が置いてあった。すぐに窓を開けて空を見てみたが、サンタさんの姿はなく、間に合わなかったとガッカリした。
父から「サンタは、人間に見つかると怒られるみたいだから、急いで帰ったんだ。会ってしまうと神様から怒られるんだから、見なくてよかったんだ。」と言われ、納得してまずはサンタさんからの手紙を読んだ。「お手紙ありがとう。妹と喧嘩しないでお父さんとお母さんのいうことをちゃんと聞いてね。」みたいなことが書いてあった。妹のほうには「好き嫌いしないで、なんでも食べてね。お姉ちゃんと仲良くね。」というような内容。その夜、実はわたしはこっそりサンタさんにお返事のお返事を書いた。もしかしたら、寝た後にサンタさんがちゃんとプレゼントに気付いたか気になって戻ってくるかもしれないと、ほんのり期待して「プレゼントありがとう。会いたかったです。でも会えなかったから、サンタさんは怒られてないよね?来年からも小さい子供たちに頑張ってプレゼントを配ってください。」と。
その年は幼稚園の最後の年。来年から小学校に上がる年。私の家のサンタさんは小学校に上がったら来なくなると聞かされていた。小学生はもうお姉さんだから、サンタさんは小さい子のところにしか来ない、と言われていたのだ。だから、この年はサンタさんがくる最後の年だった。最後だからちょっとサンタさんがサービスでいたずらしてくれたのだと思った。だからいたずらが成功したか確認しに来るのではないかと思って、内緒でこっそりお返事のお返事。でも、翌朝目が覚めると、その手紙はそのまま私の枕元に残っていた。ちょっと寂しくなったけど、誰にも言わずにそのお手紙はそっと破いて捨てた。
この年のクリスマスに起こった出来事のカラクリは、ご飯を食べてる間にこっそり母が子供部屋に行き、プレゼントと手紙を私たちのベッドに置いてからちょっと音をたて、私たちが父に「何の音?泥棒?」と聞いている間に母はこちらに戻ってくる。といった流れだったようだ。サンタさんからのお手紙は筆跡からみて毎年父が書いていたみたいだ。最後のサンタさんを私の両親がちょっと工夫して喜ばせてくれたというわけ。

小学校に入って、サンタさんは来なくなったが、相変わらずクリスマス近くになると、朝刊にはさまってくるおもちゃのチラシを抜き取って、チェックし、その中から母に今年はこれがいいとプレゼントを指定した。クリスマスプレゼント用におもちゃ屋さんやデパートのチラシはクリスマスのひと月前ぐらいから増えてくるので、そのころからチェックしていると、欲しいものが増えてくる。少しずる賢くなってきた私は、欲しいものが今だけのセールになっていると、前倒しで買ってもらい、クリスマスに妹は普通にプレゼントを渡されるのに、私にはないと、当たり前なのにしょげる私を見た父が、「かわいそうだから、小さいものでもいいから買ってやれ。」と母に命じて結局二つ目のプレゼントをゲットしていた。
小学校5年生のクリスマス。このクリスマスだけは思い出すとちょっと胸がチクチクする。
この年の夏、父と母は離婚した。父が出て行き、母と私たち姉妹の三人で暮らし始めた。父とは月に一度外で会うようになった。札幌にバスで行ったり、父がそのときに働いている職場に行ったりしてファミレスなどでご飯を食べて、私たちを家に向かうバスに乗せて、父は自分が住んでいる場所に帰る。そんな暮らしに少しずつ慣れてきた冬、クリスマスの2週間ぐらい前に母が倒れた。くも膜下出血で緊急手術をし、クリスマスの日も母は生死をさまよっていた。私たち姉妹は近所の家に預けられていたし、父の連絡先は母しか知らなかったので、クリスマスに会う予定だった父に連絡することはできなかった。クリスマス当日の夜、私たちを預かってくれていた近所のおじさんとおばさんが、私たちを会館で開かれていたピアノリサイタイルに連れて行った。私は「今日、お父さん来るから家で待ってないと。」と言ったけど、なかば強引に連れて行かれた。母方の祖父母から父が来ても子供たちに絶対に会わせないでほしいと頼まれたおばさんたちは私たちを父に会わせないように時間稼ぎをしていたのだ。その間、父は家に私たちを迎えに来たが、家に誰もいなく、不審に思い、祖父母に電話を入れた。祖母は母につきっきりで病院にいたが、祖父は人工透析があるので自宅にいてその電話を受けた。「子供たちをどこに隠した!」と怒る父に、祖父が事情を説明したらしい。祖父母は父が事情を知ったら私たちを引き取ると言い出すと思っていたらしい。祖父もかなりの剣幕で父と口論したみたいだが、そもそも父も一人で暮らすのに精いっぱいで、私たちを自分の力で養えないことはわかっていたようで、最後は祖父に謝り、そんなつもりはないから子供たちに会わせてほしいと頼んだようだった。時間稼ぎも限界を迎えて帰宅したら、私たちの家に電気が着いていた。合い鍵をまだ持っていたのか、祖父に渡されたのかわからないが、父は家で待っていた。困ったおばさんたちは私たちを車に待たせておばさんたちの家に入って、すぐに祖父に電話をして祖父と父とのやり取りを知り、私たちを父のところに連れて行った。
その夜は、父に母の病状、私たちが今どうしているのか、話しながら父が持ってきた蟹やら総菜やらを食べて、父からクリスマスプレゼントをもらった。何か月か前に会ったときに最近マンガが好きでよく読んでいると話していた私には、古本屋で当時一番安くて50円だったマンガを30冊ぐらい買ってきた。もちろん全巻そろっているものもないし、ジャンルもバラバラ。安い棚のものを適当に買ってきたのだろう。それでも私が喜ぶと思って、30冊もの重たいマンガを持ってきたのだと思うと嬉しかった。その日は父は家に泊まったので、私たちも久しぶりに自分の家の自分の布団で寝た。離婚までの経緯や、それまでの父の様子から祖父母が必死に私たちを守ってくれたのだが、父が大好きだった私は私たちの喜ぶ顔が見たくて、お金を工面して蟹を買ったり、私たちが欲しいと言っていたものを覚えていて、買ってきてくれた父に対して隠れるようなことをして傷つけたのではないかと、心を痛めた。
母が病を乗り越えて自宅で過ごすようになり、私たちも高校生になったころには、私も妹もアルバイトをしていたので、クリスマスには二人とも母にささやかなクリスマスプレゼントを贈るようになった。社会人になって、ジーンズショップで働いてたころは、そのお店で買った洋服を贈ったり、お店に来ていた宅配業者がクリスマス用に用意していたお花のギフトを母に届けてもらったこともあった。突然わたしがいない間にお花が届いたので、自分へのプレゼントだと気付かずに、「なんかお姉ちゃんの名前からお花来たけどこれ何?開けちゃったけどどうしよう。」と焦った母から仕事場に電話がかかってきて、サプライズ失敗。

母が亡くなり、夫と結婚した私は夫にクリスマスプレゼントをもらい、そして私も夫にクリスマスプレゼントを贈るようになった。私は確実に夫の欲しいものをあげたいと、事前に欲しいものを聞いて贈るのだが、夫はサプライズが上手な人なので、いろいろ考えて驚かせてくれる。
とあるクリスマス。私が当時の職場についてカバンを開けるとメモと何やら鍵が入っていた。メモを読んでみると「駅のにあるロッカーのカギです。仕事が終わったら行って開けてください。」と書かれていた。仕事が終わって指定されたロッカーに行き、鍵を開けるとキレイな腕時計とかわいいクリスマスカードが入っていた。泣きそうになったけど、人がいっぱいいたのでなんとかこらえた。
そのまた、とあるクリスマス。朝起きたらテーブルの上に大きな矢印。その方向に向かうとまた矢印。これを何度か繰り返してまたその方向に向かうと、最後のメモには「ここの中を見ろ。」そのメモがあったのはこたつの上。「中?中ってなに?」と思ってこたつの中を見てみると、大きな包みが。私が欲しかったアウターと暖かそうなマフラー、それと音楽がなるクリスマスカードが入っていた。
夫は毎年プレゼントと一緒にクリスマスカードを添えてくれる。いつも感謝の気持ちが綴られていて、私も読むと心が暖かくなって幸せな気持ちになる。

クリスマス。
本来はイエス・キリストの誕生を祝うキリスト教のお祭りで、キリストの降誕を記念する日とする歴史的経緯から12月25日に定着したとされている。24日の夜は「クリスマス・イブ」と呼ばれ、日本では宗教に関わらず冬のイベントとして広く親しまれている。
多くの人が子供のころからプレゼントをもらったり、ケーキやチキンを食べたり、キラキラのクリスマスツリーを飾ったり、楽しくて賑やかで幸せなイベントとしてたくさんの思い出を持っているだろうし、大人になってもそのイベントのイメージや過ごし方もそんな幸せなものが多いのではないでしょうか。その中にはちょっと寂しい思い出や、切ない記憶が含まれているかもしれないけれど、いろんなクリスマスの中にそれぞれの想いや願いがある。今年も平和で穏やかに、ちょっと気持ちが暖かくなるようなクリスマスを過ごせたら良い一年の締めくくりになるだろう。
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