
7月のある一日。キリがいいわけでもなければ、祝日でもない。
私たち夫婦の結婚記念日。
あなたの結婚記念日は、どんな日だろうか。
どちらかの誕生日、出会った日、ふたりの何か特別な出来事があった日。
もしくは、ぞろ目だったり、世間的に話題になった日だったり、どこか特別感がある日を結婚記念日としている夫婦は多くいるだろう。
私たち夫婦の結婚記念日はそのどれでもない。
本当に何でもない、ただの一日。
ただの日が一日減って、特別な日が一日増えた。
結婚当初、「もう少し考えて決めれば良かったか」と思ったこともあった。
ちなみに、私たちの言う結婚記念日という日は、婚姻届けが受理された日だ。
結婚式を挙げた日にしている夫婦もいるのかもしれない。
もし、私たちもその日を結婚記念日としたなら、それは私の誕生日になる。
その一日はとても印象深く、忘れがたい一日。
いっそ、式を挙げた日を結婚記念日にした方が良かったのかもしれない。
人生最大のサプライズだった「小さな結婚式」

私たちの結婚式。
それは私にとっては、人生で一番のサプライズだった。
私と夫が結婚したのは、私が34歳、夫が38歳のときだ。
私は既に母を亡くし、父ともいろいろあった末に親子の縁を切っており、結婚式を挙げても呼ぶ人もほとんどいないし、そういった大々的な式は望んでいなかった。
それでも一応ウエディングドレスは着てみたいという願望はあった。
夫にもその気持ちは伝えていて、結婚式は挙げずに、ドレスを着て結婚写真だけ撮ることになった。
そして夫が連れて行ってくれたのが、「小さな結婚式」という場所。
写真だけの結婚式を受け付けてくれる。
結婚式をしない2人にも、特別な想いを残せるようにと、ドレスサロンの数あるウエディングドレスの中から希望のドレスを選んで、当日はヘアメイクもしてくれて、綺麗に写真を撮ってくれる。
それだけで本当に充分だったし、嬉しかった。
でも、夫は私の知らないところで、仕事の合間にその場所を訪れ、サプライズをしかけていた。
私が写真撮影だけだと思って向かった当日。
「撮影のために結婚指輪をお預かりしますね。」と店員さんに言われた。
何の疑念もなく、指輪を渡し、ウエディングドレスに着替えて綺麗にヘアメイクもしてもらう。
「ご主人様は会場でお待ちなので行きましょう。入った瞬間の写真を撮るので、笑顔で入ってくださいね。」と言われた。
できる限りの笑顔を作って扉を開けると…なんだか人がたくさんいた。
写真を撮る人と夫だけがいると思っていた私は頭が真っ白になった。
部屋を間違えたのかと思った。
しばらく固まったあと、よく見てみると、夫のサッカー仲間であり私も面識のある人たちの顔。
それと、私の妹とその息子たち。
真っ白がさらに真っ白になった。もはや白を通り越して透明というか思考が停止した。
この時初めて私は「腰が抜ける」という事象を体験した。
立っていられなくなった。本当に砕けるようにその場に崩れた。
付き添っていてくれた店員さんに言われた。
「びっくりさせてごめんなさい。実はご主人によるサプライズです。
何度も仕事の合間に打ち合わせに来ていただいて、奥様に内緒で結婚式をしたいと依頼を受けていました。作戦成功ですね。」
今、思い出しても涙が出そうになる。
「何?何?なんで?」私がパニックになってる隣で夫は優しく微笑んでいた。
妹とはあまり連絡を取り合う関係ではなかったし、結婚することすらちゃんと伝えていなかった。
後から聞くと、夫がこっそり妹に連絡をとり、そのときたった一人の肉親である彼女に出席を頼んだらしい。
その願いを妹が喜んで受け入れてくれたのだと。
その結婚式は「人前式」という形で行われた。
夫が信頼する仲間たちと、私の妹と息子たちが私たちの結婚を認めるという形式。
花束を甥っ子にもらい、妹に泣きながら「おめでとう」と言われたとき、とても救われたような、許されたような気がして、今度は全ての力が解けたように溢れた涙が止められなくなった。
披露宴もなければ、ご祝儀もない。
本当に祝ってくれる気持ちだけで来てくれた人たち。
みんなと、何よりこんな忘れられない一日をくれた夫に心から感謝の想いでいっぱいだった。
痛みの記憶とともに蘇る、入籍と新婚旅行

そんな印象深い結婚式の半年ほど前に私たちは入籍をした。
そのころ私は恥ずかしいことにいぼ痔で苦しんでいた。
飛び出た患部を切除したのだが、その術後がさらにつらかった。
なにが悪かったのかわからないが、患部が炎症を起こし、ほぼ毎日病院に通って、治療してもらう毎日。
手術の二週間後ぐらいにささやかな新婚旅行を計画していて、旅行に出発する前に2人で婚姻届けを出す予定だった。
いくらなんでも二週間もあれば治るだろうと思っていたが、旅行当日になっても痛みは引かなかった。
とはいえ、ピークは越えていたし、計画を中止するのはどうしてもイヤだった。
柔らかいところであれば座っていることもできる程度には回復していたので、夫に頼んで予定通り旅行に行った。
幸い、たぶん回復段階だったようで、日に日に痛みは引いていき、旅行の楽しさで紛れたのもあったのかもしれないが、しっかり旅行を楽しむことができた。
というわけで、結婚記念日が訪れるたびにこの時の痛みも思い出すことになった。
これはこれで印象深い一日。
16回目の記念日は、お気に入りのお店で

夫は私たちが付き合い出した日もしっかり覚えていて、毎年二人でささやかなお祝いをする。
夫は私たちの結婚記念日や、私の誕生日、さらには母の誕生日、そして付き合い出した日。
いつも「せっかくの記念日だから」といろいろ考えてくれる。
夫が唯一たまに忘れたり、「何もしなくていい」というのは自分の誕生日ぐらいだ。
わたしにとっては、夫の誕生日がどんな記念日よりも大切でありがたい一日なのだが、私はサプライズが得意ではないため、夫にその想いをなかなか伝えられないのだが。
7月19日。私たちの結婚記念日。
今年は最近知り合いに教えてもらったカキが美味しくて、いろいろな日本酒を提供してくれる小さくて居心地の良いお店でお祝いをする予定だ。
16回目の結婚記念日。
今年もお互いが感謝の気持ちを忘れずに、大切にこの一日を過ごしたいと思う。

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